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はじめに|ラノーンという「通過されてきた土地」へ
タイ南部ラノーン県は、プーケットやパンガーと同じアンダマン海沿岸にありながら、日本人旅行者のあいだではまだあまり知られていない土地です。温泉が有名だと聞いたことはあっても、実際にどんな街なのか、どんな時間が流れているのかを具体的にイメージできる人は多くないかもしれません。

ラノーンは、マレー半島西岸の自然豊かな地域で、プーケットやパンガーと同様、かつては錫鉱山で栄えた歴史を持っています。
今回は、この一帯の歴史を研究しているタイ人研究者の方に案内していただき、2泊3日で初めてラノーンを訪れる機会がありました。
実際に滞在してみると、ラノーンが単なる温泉地ではなく、19世紀以降の錫産業、中国系移民、タイ王室との関係といった複数の歴史が重なり合いながら、現在の姿が形づくられていることが、少しずつ見えてきます。

本記事は、観光スポットを並べたガイドではなく、街を歩き、温泉に浸かり、食事をしながら、時間をかけてラノーンを理解していく滞在記です。
メジャーな観光地を一通り巡ったあと、もう一歩踏み込んだタイの旅をしてみたい──そんなタイ旅行中級者の方に向けて、ラノーンの魅力をお伝えします。
(ラノーンの位置)
温泉|ラノーンという街の入口
ラノーン観光と聞いて、まず思い浮かぶのが温泉です。
南国で温泉という組み合わせは少し意外に思えるかもしれませんが、実際に訪れてみると、この街と温泉が切り離せない存在であることがよくわかります。
ラクサワーリン温泉
Raksawarin Hot Spring | บ่อน้ำร้อนรักษะวาริน

ラノーンを代表する存在が、もっとも有名な「ラクサワーリン温泉」です。
タイ国王ラーマ5世の時代に発見されたとされ、ラーマ9世の還暦祝いでは聖水として使われたという、由緒ある温泉でもあります。
温泉のすぐそばには渓流が流れ、子どもたちが川遊びをする姿も見られました。周囲には遊歩道が整備され、温泉施設でありながら、公園のようなのんびりとした空気が漂っています。
川沿いの山林には、土地の精霊を祀る祠や仏教の尊像が点在し、自然信仰と仏教が同じ空間で静かに共存している点も印象的でした。

「ラクサ(癒す)」という名前の通り、この温泉は古くから聖性の高い水場として、人々の信仰の対象になったのだと思われます。現在は無料で利用できる足湯用のプールが整備されていて、私も地元の人に混じってお湯を楽しみました。
床を温泉水で温められたヨガスペースもあり、寝転んだり、軽くストレッチをするのも人気だそうです。
ラノーンを訪れたら、まず立ち寄りたい場所の一つです。
ラクサワーリン温泉周辺の休憩スポット
クン・リン・タイ料理レストラン
Khun Lin Restaurant | ร้านอาหารคุ้นลิ้น

温泉のすぐ近くにある、創業20年を超える地元の人気店です。アットホームな雰囲気で、南タイ料理を中心とした家庭的な料理が楽しめます。温泉前後の食事に便利な立地にあります。
この日は料理ワークショップが行われており、リアン菜の卵炒め作りを体験しました。大好きなメニューですが、自分で作ったのは今回が初めて。意外にシンプルで美味しくできて満足。自宅でも作ってみようと思いました。
ナ・ノーン・カフェ
Na.Nong Cafe | ณ.นอง คาเฟ่

ラクサワーリン温泉のそばで見つけた、お洒落なカフェ「ナ・ノーン・カフェ」。素朴な温泉地で、ラノーンらしからぬ(?)洗練された雰囲気に、思わず立ち寄ってしまいました。
カウンターには本格的なコーヒーマシンが置かれ、美味しそうなペイストリーも並んでいました。エスプレッソを注文すると、ミネラルウォーターも一緒にサービスしてくれました。
ラノーンで出会った、なかなかレベルの高いカフェでした。
ンガーオ滝国立公園のポーンラン温泉
Phon Rang Hot Spring | บ่อน้ำแร่ร้อนพรรั้ง

ラノーン滞在中、もう一つ訪れたのがンガーオ滝国立公園内にあるポーンラン温泉です。滝から流れ出る川と深い緑に囲まれた環境で、散策するだけでも心が落ち着きます。
敷地内には全身浴用と足浴用のプールがあり、地元の人々は服を着たまま温泉を楽しんでいました。私は足浴のみ体験しましたが、ほどよい温かさでとても快適でした。
さらに、温泉のそばを流れる川では天然のフィッシュスパも体験できます。冷たい水に足を浸すと小さな魚が集まり、足をツンツンとつついて、角質の掃除をしてくれます。
日本ではなかなか味わえない体験で、個人的にはこちらの方が印象的でした。
最後に休憩所で温泉卵をいただき、自然に癒されるのんびりとした時間を過ごしました。
日本式温泉「ラック(RAK)」
Rak Ranong Onzen & Spa

ラノーンで近年オープンした日本式温泉施設「ラック(RAK)」にも立ち寄りました。館内は撮影禁止のため写真はありませんが、造りや動線は日本の温泉そのものです。受付で浴衣を受け取り、ロッカーで浴場用の簡易な下着に着替えてから入浴します(素っ裸での入浴は禁止されています)。
浴場には3種類の湯があり、そのうち一つには実際に温泉のお湯が使われていました。水風呂やサウナも完備されており、設備面でも不足は感じません。
床暖房の効いたリラックスルームやカフェスペースも併設され、サービスの細やかさは日本並み。南タイの地方都市にいることを、思わず忘れてしまいそうになるほどでした。
ラノーンの歴史|ナ・ラノーン家と錫の時代
温泉を楽しみながら街を歩いていると、ラノーンがなぜこの場所で発展したのかが気になってきます。その答えは、19世紀以降の錫産業と、ナ・ラノーン家と呼ばれる一族の存在にあります。
ラノーンの名士「ナ・ラノーン家」の歴史
ラノーン領主公邸跡
Residence of the Governor of Ranong | จวนเจ้าเมืองระนอง

現在も続くナ・ラノーン家の敷地内に残るラノーン領主公邸跡を訪れました。
ナ・ラノーン家は、中国福建省出身の華僑・許泗漳(1797〜1882)を始祖とする一族。英国海峡植民地下にあったペナンで財を成した許泗漳は、タイ南部ラノーンに渡って錫鉱業を興し、その功績によりタイ国王から徴税の独占権と官位、欽賜名を授けられ、1854年にはラノーン領主に任命されました。
こうしてナ・ラノーン家は南タイを代表する有力一族となり、タイ王室とも深い関係を築いていきます。
1932年の立憲革命の際に、王族の国外脱出を手助けしたことで知られているのも、その影響力の大きさを物語っています。

現在も一族が所有する広大な敷地内には、かつての領主公邸が残され、歴史的な調度品や一族の写真が展示されています。
また、敷地内には遺構のような建物も点在し、積み重ねられてきた時間の重みを感じました。
何より感動したのは、許泗漳の直系子孫である現在のご当主にお会いし、歴史的な調度品について直接お話を伺えたことでした。展示として眺めるのとは違い、「今もここに続いている歴史」が感じられた体験でした。
ラノーン領主の墓地
Ranong Governor’s Cemetery | สุสานเจ้าเมืองระนอง

許泗漳の墓地は、東南アジア最大級ともいわれる規模を誇ります。ラノーンの歴史を語る上で欠かせない重要な史跡の一つです。
典型的な中国式墳墓で、「背後に山、正面に海」という理想的な風水配置にあります。
墓へ続く山道の両脇には、文官・武官をはじめ、馬や獣の石像が並んでいます。
地元の人々にとっては、ラノーンの礎を築いた人物であり、精神的なルーツともいえる存在。旧正月にはこの墓地を参拝し、新年の幸福を祈る習慣もあるそうです。
実在していた歴史上の人物でありながら、今もなお人々の信仰を集め、神ともいえる存在になっていることに、驚かされました。
ラタナランサン宮殿(模型)
Rattanarangsan Palace (Replica) | พระราชวังรัตนรังสรรค์ (จำลอง)

ラタナランサン宮殿は、1890年、ラノーン領主であったナ・ラノーン家によって、ラーマ5世(チュラロンコン大王)のラノーン来訪を記念して建てられた木造の宮殿です。
ラーマ5世に続き、ラーマ6世、ラーマ7世も、それぞれの時代にラノーンを訪れ、この宮殿に滞在したそうです。
その後、宮殿は建て替えられて、現在はラノーン県庁として使用されています。
私が訪れたのは、当初建てられた木造宮殿を、別の場所に当時の姿そのままに再現した模型宮殿です。
丘の上には、西洋式の意匠が取り入れられた壮麗な建物が建っていました。
かつてタイの地方では、国王の地方巡行に合わせて、地元の有力者が迎賓施設として宮殿の建設することが少なくなかったそうです。
ただし、そうして建てられた宮殿の中には、実際には国王が滞在しなかったケースもあったと言われています。
そのような背景を踏まえると、ラノーンの宮殿は三代にわたって国王が滞在した数少ない例の一つであり、当時のタイ王室とナ・ラノーン家との関係の深さを今に伝える、ラノーンを象徴する建物といえそうです。
ティアンスー・ハウス(百年天賜故居)
Tien Sue House | บ้านร้อยปีเทียนสือ

百年天賜故居(บ้านเทียนสือ)は、福建出身でラノーンの華人実業家であった天賜(ティエンスー)が、錫鉱王として知られる許泗漳の孫娘との婚姻を機に建てた邸宅です。
19世紀末〜20世紀初頭、港町ラノーンが国際交易で栄えた時代の記憶を今に伝えています。
建物は、中国伝統の中庭式住宅を基本としながら、アーチや装飾には西洋建築の影響が見られます。
これは当時「紅毛(ホンマオ)=西洋人」と呼ばれた人々との交易によってもたらされた意匠で、タイ南部の港町らしい多文化性を象徴しています。
この邸宅に色濃く感じられるのが、プラナカン文化との共通性です。
中国系移民が現地文化や西洋文化を取り入れて形成したプラナカン文化は、シンガポールやペナン島、タイではプーケットでよく知られていますが、実はタイ南部、とくにラノーンにもその流れをくむ文化遺産が残されています。
プラナカンという言葉は、シンガポールなどを旅した人には馴染み深いものです。
しかし、タイ南部、特にラノーンにプラナカンに連なる文化遺産があることは、まだあまり知られていません。
百年天賜故居は、その貴重な証人ともいえる存在です。
錫産業の記憶をたどる|ナ・ラノーン家が興した錫産業
伝統的な錫(すず)採掘の体験
Traditional Tin Mining

ラノーンのンガーオ村の川で、丸いお盆を手に作業する女性の姿を見かけました。
一体、何をしていると思いますか?これは「露天掘り」と呼ばれる、伝統的な錫(すず)の採掘風景です。
ンガーオ村では、今もこうした伝統的な方法が受け継がれており、実際に体験させてもらうことができました。
木製の丸いお盆に川砂を水ごとすくい入れ、ゆっくりと円を描くように回すと、重い錫だけが中央に残り、軽い砂は外へ流れていきます。
とてもシンプルですが、自然の力を上手に使った方法です。
集めた錫は地元の精製所に持ち込まれ、精製所で鉄分を含む鉱物を取り除いたあと、プーケットの精錬工場へ運ばれて精製されます。
のちに、より近代的で大規模な錫採掘技術が導入されましたが、それ以前の作業は相当な重労働だったと想像できます。
そのため、錫採掘の労働者として、多くの中国人やインド人がラノーンに移り住み、異なる文化が交わる、ラノーンならではの文化が育まれていきました。
サイアム・ティン・ヘリテージ・センター
Siam Tin Heritage Center | ศูนย์มรดกดีบุกสยาม

19世紀から20世紀初頭にかけて、タイ(当時のシャム)は、世界的に重要なすず産業の拠点として知られていました。
東南アジア錫花崗岩ベルトが南北に走るマレー半島のアンダマン海側では、ラノーンをはじめ、プーケットやパンガーなどの地域が、錫鉱山の街として発展してきました。
錫産業の歴史を辿るために足を運んだのが、「サイアム・ティン・ヘリテージ・センター」。ラノーンの錫鉱業の歴史を伝える博物館です。
博物館の建物は、かつて英国人技師によって設立された鉱山会社「Siamese Tin Syndicate Ltd.」の事務所兼住居として使われていたもの。
ラノーンの錫産業は、西洋の技術を採用して格段に生産性が高くなり、大規模になってきました。
展示室に入ると、採掘道具や当時の写真、交易ルートを示す地図が並び、ラノーンが地方都市でありながら、国際的な資源供給ネットワークの一角を担っていたことが具体的に示されています。
特に印象に残るのは、港湾施設、居住区、宗教施設の配置が、錫産業を中心に組み立てられていた点です。展示を通して、街の構造そのものが産業史の延長線上にあることが理解できます。ここでは、錫は単なる過去の産物ではなく、現在のラノーンの街並みを読み解くための鍵として位置づけられています。
ラノーンの文化|移動してきた人々が残した暮らしのかたち
大帝爺廟(慈濟宮)
Tai Tae Eia Shrine | ศาลเจ้าต่ายเต๊เอี๋ย (จูเจ่เกง)

大帝爺廟(慈濟宮)は、200年以上の歴史をもつ中華廟で、「保生大帝」を主神として祀っています。
保生大帝は、中国に実在した医師で、福建系華人のあいだでは医神として信仰を集めてきました。
かつて錫産業で人口が急増したラノーンには近代的な病院がなく、この廟は錫労働者たちの医療所としての役割も担っていたといいます。
現在も、当時の流れを受け継ぐ形で、伝統的な診療が行われているそうです。
参拝者は中国式おみくじ筒を祈りながら振り、出てきた竹の棒を廟に常駐する医師に渡します。
医師は古い医学書をもとに体調を読み取り、漢方薬の処方箋を出してくれる仕組みです。
私も実際に試してみましたが、いくら振っても竹の棒が出てこず、途中で断念しました。それでも、200年前の医療の現場を想像できる、非常に興味深い体験でした。
オウム印醤油の醸造所
Parrot Brand Soy Sauce Factory | โรงงานซีอิ๊วนกแก้ว

ラノーン発の伝統的な福建式の醤油ブランド「オウム印醤油(Parrot Brand Soy Sauce)」の醸造所を見学しました。
このブランドは、90年以上の歴史を持つ老舗で、地元ではかなり名の知れた存在です。
醤油の仕込みは、代々受け継がれてきたレシピと技術で行われており、現在は4代目のオーナーが管理しています。
敷地内に入ると、醤油を醸造している大きな甕(かめ)がずらりと並ぶ光景が広がります。奥の方では、昔ながらの釜戸の上に大きな鍋が置かれ、醤油がぐつぐつと煮え立っていました。
醤油作りの工程をご案内いただきました
1.タイ北部の大豆を16時間じっくり煮る
2.もち米の粉と混ぜて麹づくり(2週間)
3.水と海塩を混ぜて甕(かめ)で 約2年の発酵
4.発酵させた醤油ベースを別にさらに熟成・調整
5.最後に濃縮・加熱して香りを引き出す

通常は1ロットができるまでに約2年、60年熟成のプレミアム版もあるのだとか。
このような伝統的な醤油の醸造所を見学するのは私自身も初めてで、とても興味津々でした。
見学の後は、お楽しみの試食タイム。さまざまなお料理も出していただき、出来立ての醤油の豊かな風味をじっくりと楽しみました。
ラノーンの伝統的金属糸装飾(ディン)
Traditional Metal Thread Embroidery (Din) | หัตถศิลป์ดิ้นโบราณ

ラノーンで「ディン」と呼ばれる、伝統的な金属糸装飾の復興と継承に取り組んでいるピヤナットさんの工房を訪ねました。
工房の中には、技巧に富んだ美しいディンの作品が数多く展示されていました。
アクセサリーをはじめ、置物やベッドの装飾などのインテリアまで、様々な作品を見ることができます。
中でも素敵だったのは、プラナカンの花嫁が身につける冠です。
これまでプラナカン女性の花嫁衣装を目にしたことはありましたが、その冠がここまで精緻な手工芸品であるとは、今回初めて知りました。
また、ラノーンがマレーシアやシンガポールと同じプラナカン文化圏に属していることを、改めて実感しました。
この日は特別に、ディン制作のワークショップも準備していただき、小さなトンボのブローチ作りに挑戦しました。
もともと手先が不器用な私にはとても難しく、恥ずかしくてお見せできないような出来栄えでしたが、こんなにも気の遠くなるほど細かな手作業を、かつてプラナカンの女性たちが日常的に行なっていたことに驚き、とても感動しました。
ラノーンの多様な食文化|おすすめのレストラン
ティン・カフェ・ラノーン
Tin Cafe Ranong

「ティン・カフェ・ラノーン」は、ラノーンの郷土料理が味わえるレストランです。
錫鉱山の発展とともに多くの人々が移り住んだラノーンの食文化には、地域の歴史を背景とした多様性が感じられます。
特に影響が大きいのは福建系華人の食文化で、インド系やマレー系の要素が加わった料理も見られました。
シーフードサラダ「ヤーオイェー(ยาวเย)」や中華ソーセージ「チュン・ピヤ(ชุนเปี๊ยะ)」など、他の地域では見かけないラノーンの食文化が楽しめました。
同じく錫鉱山で栄えたプーケットと共通する文化的な流れを持つ点も、ラノーンの料理の特徴。プーケット料理として知られる福建麺(ミー・ホッキアン)や豚バラ肉の煮込み(ムー・ホン)もありますが、全体的にややあっさりとした味わいで、プーケット料理とはまた違う、ラノーンらしい個性を感じました。
クルア・チャルーン(ウィーティアン)
Krua Charoen (Veetiang) | ครัวเจริญ (หวี่เตี้ยง)

街の中心部にある「クルア・チャルーン」は、1964年創業、60年以上にわたって地元で親しまれてきた有名店です。
店内には、昔のラノーンの街並みを描いた記念撮影スポットや、お店の歴史を紹介する展示もあります。
店内に展示されている「หวี่เตี้ยง(ウィーティアン)」という看板は、かつての店名です。
この名称はタイ南部やマレー半島に定住した華人による中国語の屋号・店名と考えられます。
料理も、シーフードを中心とした中華とタイ南部料理が融合したスタイルで、ラノーンの歴史と食文化を堪能することができました。
キアンレー・レストラン
Keing Lay Restaurant | ร้านอาหารเคียงเล

海辺のシーフードレストラン「キアンレー」は、ビーチ沿いに建つとても大きなレストランで、到着した時にはすでにたくさんの人で賑わっていました。
このレストランがあるのは、ミャンマーとの国境線となっているクラブリー川(パクチャン川)の河口。目の前に広がる川の向こう岸は、すでにミャンマーです。
ちょうど日没直前にレストランに訪れたため、ミャンマーの奥に沈んでいう夕日を楽しむことができました。
さらに視線を遠くに向けると、クラブリー川河口にあるビクトリア・ハーバー・ポイントも見えます。ここは、19世紀英領ビルマ時代に利用された港湾拠点とされ、かつてラノーンが国際的な港であったことを物語っています。
レストランのメニューは新鮮な魚介類を使ったシーフード料理。海風に吹かれながら、水平線の向こうに煌めくミャンマーの灯りを眺めつつ、ゆっくりと美味しい食事を楽しむことができました。
(キアンレー・レストランの位置)
ラノーン・サパーンユーン朝市
Ranong Morning Market | ตลาดสะพานนกยูงระนอง

翌朝、ラヨーン市内で地元の人々に親しまれているローカルな朝市へ。
道路の両側には、屋台やカートが並び、さまざまな食材が並びます。新鮮な野菜や季節の果物、この土地ならではの在来野菜がずらり。
海辺の街らしく、鮮魚を中心とした海産物も豊富で、見たことのない珍しい魚に興味津々です。
観光地化されてない、ラヨーンの日常と暮らしが感じられる朝市です。
ラノーンの自然|環境保護の取り組み
ラノーン生物圏保護区
Ranong Biosphere Reserve

ラノーン・マングローブ林・リサーチセンターの周辺一帯には、1997年にユネスコの生物圏保護区に指定された広大なマングローブ林が広がっています。
この日はボートに乗り、果てしなく続くマングローブ林を見学しました。
約200年前、この地域では福建系中国人がこのマングローブの木を使って木炭を生産し、錫の精錬をはじめ、さまざまな産業の燃料として利用していました。
ただ、過度な伐採によって海岸線の侵食や生態系の破壊が進み、次第にマングローブ林を保護する方向へと転換されてきました。
案内してくれた地元の方の話から、日本のNGO「オイスカ」がラノーンでマングローブ林の保護活動をしていたということを、私は初めて知りました。
何も知らず、何もしていない私が、「日本人だから」という理由だけで感謝されたのも、少し気恥ずかしい思い出です。長年にわたり地道な活動をされていた方々に、感謝の気持ちを伝言したいと思います。
(ラノーン・マングローブ林・リサーチセンターの地図)
ラノーン県のタイ・クリナム学習センター
Water Onion Learning Centre

ラノーンを訪れたのは11月でした。県南部カプー地区にある「タイ・クリナム学習センター」を訪れたのは、この時期にのみ開花する、タイ原産の希少な水生植物「タイ・クリナム(Crinum Thaianum)」の花を観察するためです。
学習センターからは、「サリン」と呼ばれるサイドカー付きバイクに乗り、山奥の清流へと向かいました。
澄んだ川の流れの中ほどでは、彼岸花を思わせる白く優雅なタイ・クリナムの花が、ちょうど見頃を迎えていました。
流れのある、きわめて水質の良い環境でしか生きられないこの植物は、現在ではラノーン県とパンガー県の一部地域にのみ自生しており、絶滅の危機に瀕しているそうです。
この美しく繊細な花々がこれからも咲き続けられるよう、地域や行政による環境保全の取り組みの大切さを、あらためて実感しました。
レームソン国立公園
Laem Son National Park | อุทยานแห่งชาติแหลมสน

レームソン国立公園はタイ南部のラノーン県とパンガー県にまたがる壮大な海洋自然公園で、豊かな海岸線と多様な生態系を併せ持つ場所です。
タイの海岸線の中でも、約100kmに及ぶ国内有数の長さを誇る保護海岸線を有し、周囲には多くの無人島が点在しています。
透明度の高い海とサンゴ礁が広がり、手つかずの自然が今も色濃く残っています。島めぐりやスノーケリングも人気のアクティビティです。
ところが近年、タイ政府はマレー半島の東側に位置するチュンポーンと、ここラノーンを結ぶ「ランドブリッジ計画」を進めています。
この計画により、これまで辺境の地として独自の魅力を保ってきたラノーンの重要性が高まり、経済発展が期待される一方で、自然環境への影響は避けられないとして、環境団体や地域住民から強い懸念や反対の声も上がっています。
経済的な発展を取るのか、それとも環境保護を優先するのか、現地の住民ではない私に、その是非を語る資格はありません。
ただ、目の前に広がるこの遥かな海岸線が、いつか当たり前に見られなくなってしまうのかもしれない──そう思うと、少し寂しい気持ちになりました。
(レームソン国立公園の地図)

ラノーンで宿泊したホテル|ファームハウス・ホテル・ラノーン
Farmhouse Hotel Ranong

ラノーンでは、街の中心部に位置する「ファームハウス・ホテル・ラノーン(Farmhouse Hotel Ranong)」に宿泊しました。
ホテル名は、オーナー一家が営んでいた鶏卵農場に由来しているそうで、館内のあちこちに鶏のモチーフがあしらわれています。
さらに客室には卵が二つ置かれており、最初はちょっと驚いてしまいました。これは、温泉の街として知られるラノーンにちなんだ温泉卵で、インパクトはありますが、ラノーンらしさを感じさせる演出です。
ファームハウス・ホテルには、同じ敷地内に別棟のレストランがあり、朝食はそちらでいただきました。
ビュッフェ形式で、外国人宿泊客向けに洋食メニューも用意されていますが、それ以上に驚かされたのが、ローカル料理の充実ぶりです。

タイ南部の定番朝ごはんであるカオヤム(ライスサラダ)やカノムチーン(カレーと米麺)に加え、数種類のカレーやお粥、さらにはタイ菓子のコーナーまで揃っていて、一般的な「ホテルの朝食」という枠を超えた内容でした。
中でも特に興味を引かれたのが、「コック・シンビー(Kok Sim Bee)」と呼ばれるラノーン名物の中華スープ。珍しい料理ので、早速試食してみました。
バンコクで食べたことのある「フカヒレスープ」を思わせる風味がありつつ、具材には卵や椎茸が入り、さまざまなハーブやスパイスが使われています滋味深く、胃にやさしい、印象に残る一杯でした。
ホテルはラノーン領主公邸跡の近くで、街の中心部に位置するため、観光の拠点としても便利です。街自体がコンパクトなので、ホテルで自転車を借りれば、主な見どころはほぼ回れてしまうと思います。
大規模なホテルではありませんが、とてもアットホームで、終始心地よく滞在できました。
ファームハウス・ホテルの詳細は、agodaやbooking.comなどの予約サイトで確認できます。
まとめ|訪れて初めてわかるラノーン観光の魅力

ラノーン観光の情報は少なく、ひと目でわかる派手な魅力はありません。しかし、温泉に浸かり、錫産業の痕跡を辿り、文化や食に触れ、自然の中を歩くことで、少しずつ街の輪郭が見えてきます。
ナ・ラノーン家と錫産業が築いた基盤の上に、多様な人々の暮らしが重なり、現在のラノーンがあります。次にこの街を訪れるときは、今回行けなかった島々にも足を伸ばし、また別のラノーンの表情を見てみたいと思います。
タイランド画報 (ThailandGaho) 