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カノムボディン (Khanom Bodin; タイ語 ขนมบดิน)について知ったのは、つい最近のことです。トンブリー地区にある有名なローカル市場「タラートプルー(Talat Phlu; タイ語 ตลาดพลู)」について調べていたとき、偶然見つけたのです。
カノムボディンは、タラートプルーに近いスアンプルー集落(Baan Suan Phlu;タイ語 บ้านสวนพลู)が発祥のお菓子です。この地域で50年以上前に誕生し、今ではタイ全国から注文が来るほど有名なお菓子になりました。
スアンプルー集落は、タラートプルーに近いイスラム系タイ人が多く住む地域で、トンブリ王朝時代から250年以上の長い歴史があります。
その存在を知ってからずっと気になっていたカノムボディン。2022年7月7日、初めてスアンプルー集落を訪れ、ようやくカノムボディンに巡り会いました。この地域の歴史とともに、カノムボディンについてご紹介しましょう。
スアンプルー集落の場所
チャオプラヤ川東岸にあるバンコクのトンブリ地区に、スアンプルー集落があります。国鉄メークロン線の始発駅であるウォンウィアンヤイ駅の付近です(注:ウォンウィアンヤイ駅は、国鉄とBTSで同じ名前の駅がありますが、徒歩で10分ほどの距離があり、全く別の場所にあります)。
「ウォンウィアンヤイ(Wong Wian Yai; タイ語 วงเวียนใหญ่)」とは、トンブリ王朝を興したタークシン王の大きな銅像が建つロータリー(円形の広場)です。
国鉄ウォンウィアンヤイ駅から次のタラートプルー駅に向かう線路沿いに、ローカルな雰囲気が残るスアンプルー集落があります。
スアンプルー集落の歴史
スアンプルー集落に最初に住んだのは、200年以上前にアユタヤから移住してきたマレー系タイ人です。アユタヤは、かつて400年以上続いたタイ(当時の国名はシャム)の王都でしたが、1767年にビルマ軍の攻撃により壊滅してしまいます。
アユタヤ時代最後の王がビルマ軍に倒された後、挙兵してビルマ軍を駆逐し、アユタヤ奪回に成功したのがタークシン王。自らが王に即位し、アユタヤに代わる新たな王都を現在のバンコクのトンブリ地区に定めます。トンブリ王朝時代の始まりです。
アユタヤの都がビルマ軍に攻撃された時、多くの国民が命を落としました。しかし、なんとか生き延びてバンコクに逃れてきた人々もいました。アユタヤから逃れたマレー系タイ人がトンブリ地区のバンコクヤイ運河の近くにあるこの地域に住むようになり、スアンプルー集落が形成されたのです。
その後、タークシン王は精神攪乱を理由に後のラーマ1世王により処刑され、現在のラタナコーシン王朝が誕生。ラーマ1世王は、タイ南部のパタニー王国をたびたび侵略し、多くのマレー人をバンコク周辺などに強制移住させました。そうした強制移民の一部の人々も、後にスアンプルー集落の住民に加わりました。
マレー系タイ人はスンニ派のイスラム教徒です。スアンプルーモスクは、マレー系タイ人の信仰の拠り所として、180年以上に建てられ、現在もスアンプルー集落の中心的な存在となっています。
スアンプルー集落とタラートプルーの関係
スアンプルー集落の名前は、かつてこの地域の住民がキンマ(タイ語でプルー)の葉を栽培し、地域全体にキンマの畑が広がっていたことに由来します(スアンは農園、プルーはキンマを意味するタイ語)。
キンマはラーマ5世王の時代に禁止されるまで、タイで非常に人気のある嗜好品でした。キンマの売買をする中国系タイ人の商人が移住してきて、キンマの一大市場としてタラートプルー(タラートは市場、プルーはキンマを意味するタイ語)が繁栄しました。市場がなくなった今でも、地名だけが残っているわけです。
カノムボディンの元祖「マリヤベーカリー」
国鉄メークロン線の線路沿いを歩いていると、スアンプルーモスクの近くに「マリヤベーカリー」のお店が見えてきます。現在、スアンプルー集落にはカノムボディンを作って販売しているお店がいくつかありますが、この「マリヤベーカリー」が元祖のようです。
店先には、大きな四角い型で焼き上げたカノムボディンが山積みになっていました。焼きたてのケーキのいい香りが漂います。
タイのメディアでもよく紹介される有名店です。ちょうど私が行った時にも取材に来ている人がいました。
カノムボディンはいくつか種類がありました。私は、シロップ漬けの野菜やフルーツがトッピングされたカラフルなケーキのミニ版を購入(50B)。大きいサイズは切り分けて、催事の食事などでみんなで食べるのでしょう。
スアンプルー銘菓カノムボディンの誕生
カノムボディンがスアンプルー集落で誕生したのは50年以上前のことです。マリヤベーカリーの現在のオーナーの祖母は、シーロム通りにある西洋人家庭で家政婦として働いていたとき、西洋風のバターケーキの作り方を覚えました。
彼女は、バターの代わりにマレー系タイ人がカレーの材料としてよく使用するギーバターを使い、オリジナルレシピのお菓子を作り上げたのです。1時間以上かけて生地を手でこね、四角い型に入れてオーブンで焼き上げます。そのスタイルは、今でも変わっていないそうです。
最初カノムボディンは、ラマダンや結婚式など、イスラム教徒の特別な催事でふるまうお菓子として作っていました。その後販売を始めると、全国から注文が来る有名なお菓子になってしまいました。
カノムボディンを食べてみた
焼きたてのカノムボディンを買って帰り、自宅で早速ティータイム。ナイフを入れると、生地がもっちり、ずっしりとしているのがよくわかります。
一口食べると、濃厚なバターの風味がして、本当に美味しい!通常のバターケーキよりもしっとりしていて、思ったほど甘すぎず、トッピングの野菜と果物のシロップ漬けも、ちょうどよいアクセントになっていました。何より、ミニサイズとはいえ、これで50バーツ(約200円)なんて、信じられません。全国から注文が殺到するというのも頷けます。
カノムボディンは、お店のフェイスブックなどを通じて、オンラインでも買えるようですが、スアンプルー集落のローカルなお店の雰囲気もとても印象的で、新たなバンコクの魅力を発見させてくれました。
マリヤベーカリーの基本情報
Mariyah Bakery / ขนมบดินมารียะห์เบเกอรี่
フェイスブック: https://www.facebook.com/KhnmBdinTnTarabMaRiYahbeKeXri
マリヤベーカリーの地図
参考文献
Daengnararaksrasami, N. (2018, July 19). bantuk chivit bodin haeng suan phlu [บันทึกชีวิตบดินแห่งสวนพลู]. Sarakadee Magazine. retrieved from https://www.sarakadee.com/2018/07/19/ขนมบดินสวนพลู/ (閲覧日:2022, July 28)
木村正人・松本光太郎. (2005). イスラーム地域としての中国とタイ(2)タイにおけるムスリムの歴史. コミュニケーション科学. 第22号. pp.81-112.
Masjid Map. (2012, March 21). masjid suan phlu [มัสยิดสวนพลู]. Retrieved from https://www.masjidmap.com/mosque/info/1984205736 (閲覧日:2022, July 28)
Thai PBS. (2020, May 8). immonrot [อิ่มมนต์รส]: เปิดตำรับขนมบดิน ความหอมหวานแห่งรอมฎอน ชุมชนมัสยิดสวนพลู [TV Program]. retrieved from https://www.youtube.com/watch?v=6H6EMCvpppM/ (閲覧日:2022, July 28)
Van Roy, E. (2017). Siamese Melting Pot: Ethnic Minorities in the Making of Bangkok. Chiang Mai: Silkworm Books.